Ongoing Collective DIARY

あなたの知らない世界
2019年6月28日小川 格

凶悪な宇宙恐竜のように硬質な長い首を振り回して、粉塵のむこうで嫌らしいダイダイ色のショベルカーが暴れている。
バキバキバキバキ。
眼に映るもの全て、あらゆるものを獲物として、敵として認識しているのだな。
手当たり次第に躊躇なく、優しさのカケラとて有るわけも無く、執拗かつ的確に、射程圏内なべてをその強靭なギザギザの牙で貪り、粉砕し、食い散らかす。
バキバキバキバキ。
迸るマキシマム・ギガ・ネガティヴ・エネルギー!!
哀れ、逃げ惑うすべを持たないまま、グッタリとなすがまま、微塵に蹂躙されるのは、主亡き後のアトリエと、取り残され、みはなされた物たち。



バキバキバキバキ。バキバキバキバキ。
バキバキバキバキ。バキバキバキバキ。
バキバキバキバキ。バキバキバキバキ。
バキバキバキバキ。バキバキバキバキ。



瓦礫と土埃の隙間からチラリちらりと、美しい色の絵の具の乗っかった画布の切れ端が見え隠れする。木枠ごとたやすく骨折させられ、畳まれて、タンポポの綿毛のようにも軽やかに吹き飛んで散りぢり、小さくなっていく。キャンバスはただの柔らかい布だとぼんやり気がつくが、もう遅い。



よくぞ集めた様々な釣り道具。足の千切れたカエルのルアー「かへるくん」。
バキバキバキバキ。
ロクに弾けないのに沢山のギターとか。切れた弦の白鳥の歌「Born to Lose」。
バキバキバキバキ。
読みもしないのに積んであった立派な書物や、こちらは読み込んだ少年漫画(JC)。
バキバキバキバキ。
やたらと物持ちが良かった衣類。カッコイイ帽子やイカしたジョンソンズのブーツ。
バキバキバキバキ。
あとは食器とか工具とか、買ってから一度も目を向けなかったお土産品とか。
酒の空き瓶、昔のおもちゃ、いつか作品に使うはずだったガラクタなんかも。
レコードとかCDとかカセットも。
バキバキバキバキ。
バキバキバキバキ。



そんな陰惨な光景。白昼の惨劇。公開処刑。セ・ラヴィ。野次馬さえも居ない.
或いはそれはそれでまた、例えばジャン・ティンゲリーの私の大好きな「New York賛歌」みたいにあっけらかんとした情景にでもなるといいな?



ああ。しかし。
なんかウンザリだな。



バキバキバキバキ。
バキバキバキバキ。
バキバキバキバキ。
バキバキバキバキ。



空き地を見るたびに、他人の家屋の解体作業現場を見かけるたびに、
頻繁に心によぎる下降的幻影。我が死後のわたしの知らない世界。



あああ。
才能と運と気力と体力と知力と努力と根性と金と地位が無いなあ、無かったな。
バキバキバキバキ。
ウンザリだなあ。



小川格

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